小説家の名言集
翻訳って究極の精読なんですよ。一字一句をゆるがせにできない中で熟読するので、すごく小説の勉強になる。作家や文壇との付き合いもほとんどない僕にとっては、翻訳が唯一の文章修業みたいなものでした。わからないところがあれば、一日中、たった一行の文章とにらめっこして考え込むのは、小説を書くうえでもいい頭の運動になるんです
村上春樹
翻訳をしていて一番難しいのは、英語のリズムをアレンジして日本語のリズムに変えなければいけないところです。リズムがないと人は文章を読めませんから。一番ダメな翻訳は、読んでいるうちにわからなくなってしまって、何回も前に戻って読み直さなければならないものでしょう。そういう意味でもやっぱり文章の命はリズムですから、話をとんとんと進めていった方がいいんじゃないのかな
これはどんな分野でもそうだと思いますけど、これはすごい、と自分が本当に100%認められる実例がちゃんと存在していると思えることは素晴らしいことですよ。それはちょうどギャツビーにとっての沖合の緑色の灯火のようなものですね。僕にとっては、それが新訳を手掛けたこれらの小説なんです
傲慢に聞こえるかもしれないけれど、いま、それなりの年齢になってみて、学ぶべきものはだいたい学んだなという印象があるんです。あとはもう、自分の手で自分の方法を拓いていくしかないんですよ。道のないところに何とか道をつくっていくしかない
身体を鍛えていることもそうですけど、僕にとっての翻訳って、いまよりほんのちょっとでもよい小説を書くために続けてきたものなんです
僕は小説家として、本当に欲が深いんですよ。でも、すべての小説家は自分の書くものに対して欲深であるべきなんじゃないのかなとも思います。現状で満足していたらどうしようもないですから
僕はもうかれこれ30年も小説を書いてきたことになりますけど、ホントにまだ発展途上だと思っています。だから、他人のことをとやかく言えるような余裕はまったくないんです。目の前にある、いま、自分が書いている小説のことだけで精一杯ですから
人が生きていくためにはそういうものが必要なんだ。言葉ではうまく説明はつかない意味を持つ風景
でもやっとわかってきたんだ。彼女は概念でもないし、象徴でもないし、喩えでもない。温もりのある肉体と、動きのある魂を持った現実の存在なんだ
彼らはどのあたりまでが周到で、どのあたりからがやり過ぎになるかを心得ている。ジェイ・ギャツビーの図書室と同じだ。本物の書物は揃える。しかしページを切ることまではしない
ここは僕自身の世界なんだ。壁は僕自身を囲む壁で、川は僕自身の中を流れる川で、煙は僕自身を焼く煙なんだ
おそらく限定された人生には限定された祝福が与えられるのだ
気の利いた女の子というのは三百種類くらいの返事のしかたを知っているのだ。そして離婚経験のある三十五歳の疲れた男に対しても平等にそれを与えてくれるのだ
そしてそこであんたはあんた自身になれるのだ。それに比べれば、この今の世界はみせかけのまぼろしのようなものに過ぎんのです
青豆をみつけよう、と天吾はあらためて心を定めた。何があろうと、そこがどのような世界であろうと、彼女がた とえ誰であろうと
青豆はその温もりをここまで伝えに来てくれたのだ。天吾はそう思った。それが彼女が二十年前に、あの教室で手渡してくれたパーケージの意味だった
「ほうほう」とはやし役のリトル・ピープルが言った。「ほうほう」と残りの大人が声を合わせた。「天吾くん」と青豆は言った。そして引き金にあてた指に力を入れた
私自身のために生きることはできなかった。そんな可能性は私からあらかじめ奪われてしまっていた。でもそのかわり、彼のために死ぬことができる。それでいい
彼が感じている温かみは、痛みと対になって訪れるものなのだ。痛みを受け入れない限り、温かみもやってこない。それは交換取引のようなものなのだ
そんなことちらりとも頭をよぎらない。そうだろう?しかし誘拐されるときはちゃんと誘拐されるんだよ。それはなんと言えばいいか、超現実的な感覚を伴うものだ
ここは見世物の世界 何から何までつくりもの でも私を信じてくれたなら すべてが本物になる
何が善なるものであれ、何が悪なるものであれ、これからは私が原理であり、私が方向なのだ
そいつはなによりなことだ、と彼は思う。人の死はすべからく悼まれるべきなのだ。たとえほんの短い時間であったとしても
俺はときどき目を閉じて、その言葉を何度も何度も頭の中で繰り返す。すると気持ちが不思議に落ち着くんだ。冷たくても、冷たくなくても、神はここにいる
誰もが恋をすることによって、自分自身の欠けた一部を探しているものだからさ。だから恋をしている相手について考えると、多少の差こそあれ、いつも 哀しい気持ちになる
ぼくにはあなたの勇気と正義が必要なんです。あなたがぼくのうしろにいて、『かえるくん、がんばれ。大丈夫だ。君は勝てる。君は正しい』と声をかけてくれることが必要なのです
この世の中に、何も求めるべきものを持たない寂寥感ほど過酷なものは他にありません
最初からああだこうだとものごとを決めずに、状況に応じて素直に耳をすませること、心と頭をいつもオープンにしておくこと
僕らは収支決算表を睨んで生きているわけじゃない。もし君が僕を今必要としているなら僕を使えばいいんだ。そうだろ?
人間には欲望とプライドの中間点のようなものが必ずある。全ての物体に重心があるようにね
宗教とは真実よりもむしろ美しい仮説を提供するもの
だから正確に言えば、私はここでの仕事を楽しんでいるというわけでは ないのです。私はただ、この仕事を全体的に受け入れようとしているだけです
この人と一緒にいる限り私が悪くなることはもうないだろうってね。ねえ、私たちの病気にとっていちばん大事なのはこの信頼感なのよ
頭が悪いんじゃなくて、普通なんだよ。僕にも僕自身のことでわからないことはいっぱいある。それが普通の人だもの
ねぇ、自分が今やっていることが正しいかどうか迷うことってある?迷わないことの方がむしろ少ない。本当に?本当に
彼女の求めているのは僕の腕ではなく誰かの腕なのだ。彼女の求めているのは僕の温もりではなく誰かの温もりなのだ
何も考えてはいけない、と僕は思った。想像してはいけない。間宮中尉は手紙の中でそう書いていた。想像する事がここでは命取りになるのだ
自分がどこにいるのかも定かではなかった。正しい方向に進んでいるという確信もなかった。ただどこかに行かないわけにはいかないから、一歩また一歩と足を運んでいるだけだった
人間というのは実際には、そんなに簡単に自分の力でものごとを選択したりできないものなんじゃないかな
もうそれまでの現実否定で小説を書いても、それは人を動かさないよ
気分が良くて何が悪い?
金持ちなんて・みんな・糞くらえさ
まるで何もない十年だ 手に入れたものの全ては無価値で 成し遂げたものの全ては無意味 そこから得たものは退屈さだけだった
あなたの人生が退屈なんじゃなくて、退屈な人生を求めているのがあなたじゃないかってね。それは間違ってる?
あなたの退屈さはあなたが考えているほど強固なものじゃないかもしれないということよ
弱さというのは体の中で腐っていくものなんだ自分の中で何かが確実に腐っていくというのが、 またそれを本人が感じつづけるというのがどういうことか、君にわかるか?
俺は俺の弱さが好きなんだよ。苦しさや辛さも好きだ。夏の光や風の匂いや蝉の声や、そんなものが好きなんだ
本当にまれなほど徹底した弱さは全世界を破壊するほどの過激な観念を生んでしまう
だんだん腐って溶けて最後には緑色のとろっとした液体だけになってね、地底に吸いこまれていく
あなた、今どこにいるの?
資格というのは、あなたがこれから作っていくものよ
どんな髭剃りにもその哲学がある
この作品は、芥川賞を受賞すべきであった。その事により、芥川賞は自滅し、現今の商業文学誌はすべて廃れるべきで あった
世界中のジャングルの虎がみんな溶けてバターになってしまうくらい好きだ
春の熊くらい好きだよ
夜中の汽笛くらい
斧を放り込んだら妖精が出てきそうだな
世界中の森の木が全部倒れるくらい素晴らしいよ
もし僕たちが年中しゃべり続け、それも真実しかしゃべらないとしたら、真実の価値など失くなってしまうのかもしれない
ううん、そんなことないのよ。私が今すこし疲れてるだけ。雨にうたれた猿のように疲れているの
ベッドの中でも、ベッドの外でも。彼女はぼくを、まるで飛行機のファーストクラスに乗ったような気分にさせてくれた
好奇心というのは信用のできない調子のいい友達と同じだよ。君のことを焚きつけて、適当なところですっと消えてしまうことだってある
世の中に存在するあらゆる傾向はすべて宿命的な病いなのだ
私、二流のマッチ棒よりは一流のマッチ箱の方が好きよ
女というのはまるで鮭みたいだ。なんのかのと言ったって、みんな必ず同じ場所に戻りつくのだ
どれだけ進行を遅らせたところで、老いは必ずその取りぶんを取っていく
退屈さの中に、固有の意味を見いだしていくことになります。意味というのは、一種の痛み止めなのです
夢の中から責任は始まる
退屈でないものには人はすぐに飽きるし、飽きないものはだいたいにおいて退屈なものだ
もしほんとうに自由を与えられたりしたら、たいていの人間は困り果ててしまうよ。覚えておくといい
世の中のほとんどの人は自由なんて求めてはいないんだ。求めていると思いこんでいるだけだ。すべては幻想だ
僕らの人生にはもう後戻りができないというポイントがある。それからケースとしてはずっと少ないけれど、もうこれから先には進めないというポイントがある。そういうポイントが来たら、良いことであれ悪いことであれ、僕らはただ黙ってそれを受け入れるしかない。僕らはそんなふうに生きているんだ
僕らはみんな、いろんな大事なものをうしないつづける。大事な機会や可能性や、取りかえしのつかない感情。それが生きることのひとつの意味だ
トルストイが指摘しているようにね。幸福とは寓話であり、不幸とは物語である
幸福は一種類しかないが、不幸は人それぞれに千差万別だ
その砂嵐が終わったとき、どうやってそいつをくぐり抜けて生きのびることができたのか、君にはよく理解できないはずだ。いやほんとうにそいつが 去ってしまったのかどうかも確かじゃないはずだ。でもひとつだけはっきりしていることがある。その嵐から出てきた君は、そこに足を踏みいれたときの君じゃないっていうことだ。そう、それが砂嵐というものの意味なんだ
君はじっさいにそいつをくぐり抜けることになる。そのはげしい砂嵐を。形而上的で象徴的な砂嵐を。でも形而上的であり象徴的でありながら、同時にそいつは千の剃刀のようにするどく生身を切り裂くんだ。何人もの人たちがそこで血を流し、君自身もまた血を流すだろう
ある場合には運命っていうのは、絶え まなく進行方向を変える局地的な砂嵐に似ている。君はそれを避けようと足どりを変える。そうすると、嵐も君にあわせるように足どりを変える。何度でも何度でも、まるで夜明け前に死神と踊る不吉なダンスみたいに、それが繰りかえされる。なぜかといえば、その嵐はどこか遠くからやってきた無関係な“なにか”じゃないからだ。そいつはつまり、君自身のことなんだ。君の中にあるなにかなんだ
想像力を欠いた狭量さ、非寛容さ。ひとり歩きするテーゼ、空疎な用語、簒奪(さんだつ)された思想、硬直したシステム。僕にとってほんとうに怖いのはそういうものだ。僕はそういうものを心から恐れ憎む
目を閉じても、ものごとはちっとも良くならない。目を閉じて何かが消えるわけじゃないんだ。それどころか、次に目を開けたときにはものごとはもっと悪くなっている。私たちはそういう世界に住んでいるんだよ
あなたさえ私のことを覚えていてくれれば、ほかのすべての人に忘れられたってかまわない
思い出はあなたの身体を内側から温めてくれます。でもそれと同時にあなたの身体を内側から激しく切り裂いていきます
死は生の対極存在なんかではない。死は僕という存在の中に本来的にすでに含まれているのだし、その事実はどれだけ努力しても忘れ去ることができるものではないのだ
私たちがもともな点は、自分たちがまともじゃないってわかっていることよね
村上春 樹
孤独が好きな人間なんていないさ。無理に友だちを作らないだけだよ。そんなことしたってがっかりするだけだもの
他人と同じものを読んでいれば他人と同じ考え方しかできなくなる
僕はこれまでの人生で、いつもなんとか別な人間になろうとしていたような気がする
自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のやることだ
僕は違う自分になることによって、それまでの自分が抱えていた何かから解放されたいと思っていたんだ。僕は本当に、真剣に、それを求めていたし、努力さえすればそれはいつか可能になるはずだと信じていた。でも結局のところ、僕はどこにもたどりつけなかったんだと思う。僕はどこまでいっても僕でしかなかった
どれほどこっそり息を潜めていても、そのうちに誰かが必ずあなたを見つけ出します