刀二つにてつかふ兵法は、負くるも一人、勝つも一人のみ也。是はいとちいさき兵法也。勝負ともに、其得失僅か也。一人勝ちて天下かち、一人負けて天下まく、是大なる兵法也
柳生宗矩
心の良知、これを聖と謂う。聖人の学はただこれこの良知を致すのみ。自然にしてこれを致す者は、聖人なり。勉然としてこれを致す者は、賢人なり。自ら蔽われ自ら昧くして、敢てこれを致さざる者は、愚不肖の者なり
王陽明
学者一念善を為すの志、樹を種うるが如し。樹の初めて生ずる時、便ち繁枝をぬき、亦た須らく刊落すべし。然る後に根幹能く大なり、初学の時も亦た然り。故に立志は専一を貴ぶ
心は即ち理なり。天下にまた心外の事、心外の理有らんや。ただ心の人欲を去り、天理を存する上にありて功を用ひれば便ち是なり
さては世が末になり、男の気おとろへ、女同前になり候事と存じ候。口のさきの上手にて物をすまし、少しも骨骨とある事はよけて通り候。若き衆心得有りたき事なり
山本常朝
今どきの奉公人を見るに、いかう低い眼の着け所なり。スリの目遣ひの様なり。大かた身のための欲得か、利発だてか、又は少し魂の落ち着きたる様なれば、身構えをするばかりなり
少し眼見え候者は、我が長(た)けを知り、非を知りたると思ふゆゑ、猶(なほ)々自慢になるものなり。実に我が長け、我が非を知る事成り難きものの由。海音(かいおん)和尚御咄(おんはなし)なり
人間一生誠に纔(わづか)の事なり。好いた事をして暮すべきなり。夢の間の世の中に、すかぬ事ばかりして苦を見て暮すは愚(おろか)なることなり。この事は、悪しく聞いては害になる事故、若き衆などへ終に語らぬ奥の手なり。我は寝る事が好きなり。今の境界相応に、いよいよ禁足して、寝て暮すべしと思ふなり
世に教訓をする人は多し、教訓を悦ぶ人はすくなし。まして教訓に従ふ人は稀(まれ)なり。年三十も越したる者は、教訓する人もなし。教訓の道ふさがりて、我儘(わがまま)なる故、一生非を重ね、愚を増して、すたるなり
大酒(たいしゅ)にて後れを取りたる人数多(あまた)なり。別して残念の事なり
酒盛の様子はいこうあるべき事なり。心を附けてみるに、大方飲むばかりなり。酒というものは、打ち上がり綺麗にてこそ酒にてあれ、気が附かねばいやしく見ゆるなり。大方、人の心入れ、たけだけも見ゆるものなり。公界物なり
若し図にはづれて生きたらば、腰抜けなりとて、世の物笑ひの種となるなり。此のさかひ、まことに危し。図にはづれて死にたらば、犬死気違ひとよばるれども、腰抜けにくらぶれば、恥辱にはならず。是れが武道に於いてまづ丈夫なり
凡そ二つ一つの場合に、早く死ぬかたに片付くばかりなり。別に仔細なし。胸すわりて進むなり
武士たるも のは、武道を心掛くるべきこと、珍からしからずといへども、皆な人油断と見えたり。其の仔細は、武道の大意は、何と御心得候か、と問ひかけられたるとき、言下に答へ得る人稀なり。そは平素、胸におちつきなき故なり。さては、武道不心がけのこと、知られ申し候。油断千万のことなり
一人の悪に依りて万人苦しむ事あり。しかるに、一人の悪をころして万人をいかす。是等誠に、人をころす刀は、人を生かすつるぎなるべきにや
閲覧履歴
なし