私が本気でお説教らしきものをしたのは一回だけです。子どものときではなく大人になってからです。プロ2年目の1994年オフ。日本シリーズで西武ライオンズを4勝2敗で倒し、日本一になり、故郷に凱旋したときでした。辺りが薄く暗くなった夕刻、家の前は報道陣とファンでごった返していきました。そこへ秀喜がタクシーに乗って帰ってきたのです。秀喜がタクシーを降り、周囲を一瞥し、手をあげた 瞬間、私はドキッとしました。さりげない動作の中に天狗になってるというか、スター気取りというか、いやな雰囲気を感じ取ったのです。秀喜の瞳の中には明らかにおごりの光が宿っていました。その夜、わたしは秀喜に対し、言葉を選びながら初めてこんこんと思いを語りました。「主観的に自分を見てはいけません。客観的に立場を見なさい。周囲の人、たとえばマスコミやファンは野球選手として、バットマンとしての一面を見て、美化しているにすぎません。人間性とか、ほかの面で評価しているのではないのです。秀喜は自分では気付かないだろうが、あの態度は少し変だ。お父さんはまるで凱旋将軍のように感じられました。」引用:「秀さんへ。」松井昌雄 文藝春秋
松井秀喜